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​姫発の休日

​「休日?」

「そうです、休日です」

邑姜の一言に、姫発はたじろいだ。

周が制定されてから1年。ここまでの間、ほぼ休みなく武王・姫発は働いてきた。

大好きなプリンちゃんの追っかけも手放し、戦で荒れた領土を復興させるのに手一杯な日々。

 

人が変わったようだ、とは周りから言われるのにも慣れた。

そんな、あくる日だった。

 

「休みね……」

姫発はため息をついた。

邑姜に目をやると、大きくなったお腹を大事そうにさすっている。

今、プリンちゃんを追いかけたら、殺されるな。

妊娠中の浮気は一生恨まれますよ。

と、旦に釘を刺されていた。

ひとまず、城内の中庭へ出る。

陽の光を浴びることすら、久しぶりだ。

ここまで勤勉な俺を太公望が見たら、びっくりするだろうな。

 

太公望がフラフラと現れる周期は、多くて年に1度。

以前、桃まんをダラダラ食べていた日からは、随分と時間が過ぎた。

1年など、仙人にとっては一瞬のときかもしれない。

「次は、会えるかな……」

姫発も腹へ手を添える。

そこには、長く癒えない傷が膿んでいた。

窓から姫発を見つめていた瞳が4つ。

「王妃様」

周公旦が、邑姜へ声をかける。

「はい、周公旦様」

「小兄様は、いつまで生きられますでしょうか」

「私は、預言者ではありませんが……」

邑姜が目を伏せる。長いまつげが、くっきりと頬へ影を落とした。

「永遠であればいいと、願っています」​

空はどこまでも澄んでいる。

遠くには、ゴマ粒のような点が動いていた。

徐々に大きくなるその影は、再会の予兆であった。

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